「まかない」で店を回す秘訣は、「まかない」で店を回さないこと
こんにちは。
このブログは『あなたの"ふつう"をあつらえる』未来食堂が開店するまでと、その後の日記です。
今日は、未来食堂のシステムのひとつ「まかない」について、特に「まかない」で店を回す秘訣についてお話しようと思います。
まかないとは
未来食堂では、50分のお手伝いで一食無料提供します。
一緒に働いて、本当のまかないを食べてみませんか?
未来食堂 - あなたのふつうをあつらえます
50分の手伝いを対価に一食分を提供する仕組みです。昼枠と夜枠があり、Google カレンダーで枠を公開しているので、早い者勝ちで誰でも申し込むことが出来ます。
ご覧のようにとてもシンプルな仕組みですが、「ほんとにこれでお店が回せるのか」と不思議に感じている方も少なくありません。
運営者は結構大変そう。新人バイトをすぐに扱うのは大変だと思う。
50分働けば一食タダ!まかないが食べられる神保町「未来食堂」 (1/5)|寅年生まれ肉食ナベコの「なんでも食べてみる」 https://t.co/pECYGJ5luC @asciijpeditorsさんから
— 管理人 (@sekaikanri) 2015, 11月 24
人件費がゼロになるこのアイデアは、しかしそこまで突飛なものではなく店舗経営者であれば誰もが一度は考えるレベルだと思います。
アイデアとしてはよく出てくる話だと思うけど、これを実行してお店回しているのがすごい。肝心の食事はおいしいのかな/元・エンジニアが営む“定食屋のスタートアップ”が、飲食業界の定説を覆す!? https://t.co/irSItOIl1S
— レジー (@regista13) 2015, 11月 10
でも、実際に「まかない」で全てを運用している店舗はないと思います。少なくともシステムとして公言している所はないと思います。ここでは、既存の店舗が「まかない」をしない理由とともに、未来食堂ではその理由をどう考えているかを書こうと思います。
※これらの考察は「まかない」の優劣を問うものではありません。
「まかない」が”無理”と思われる理由
大きくこの3つがあるかと思います。
- 常に人材が確保できる保証がないから
- 短期間だけ来られても教育コストがかかるから
- 普通に人を雇ったほうが楽だから
順に見ていこうと思います。
常に人材が確保できる保証がないから
一番大きい理由はこれではないでしょうか。
「まかない」は立候補制。当たり前ですがまかないさん(まかないに参加する人)がいなければ、一人で店を回すことになります。必ずXX人が必要なのであれば、直ぐに破綻します。
ならね、逆に考えれば良いのです。
まかないさんがいないと破綻するのであれば、まかないさんがいなくても回る店にすればいいのです。
ふざけていません。
これが「まかない」の考え方の全てです。
例えば昼枠(ランチピーク)にまかないさんがいると、
- 新メニュー(新オペレーション)
- いつもより丁寧な盛り付け
- いつもより複雑な盛り付け
が実験できます。そしてそのフィードバックを明日以降に組み込めます。
いないと困るわけではないけれど、店が進化するには欠かせない存在なのです。
夜枠(閉店後掃除)にまかないさんがいると、
- 普段は(物理的に)手が届かない場所の掃除(私は156センチ)
- 普段は(時間的に)手が届かない場所の掃除(壁の乾拭きなど)
が出来ます。
「まかない」に頼らない自立した店だから、「まかない」ができるのです。
あと、これは自分の反省点なのですが、開店直後はオペレーションの未熟さ故に友達に手当たり次第ヘルプを出してしまい、それ自体はいいのですが、頼まれてOKを出した側(友達)が優位に立ってしまい、ドタキャンが相次ぐという事態もありました。まかないは、遊びではありません。反省し、お店側からは決して誘わないようにしています。「手伝おう」という気持ちが一番大切で、強引な勧誘はその気持ちを育みません。
短期間(50分)だけ来られても教育コストがかかるから
これも理由の一つだと思います。未来食堂では以下のように考え解決しています。
- ガイドの充実
事前にまかないガイドを読んでもらうことで、スムーズなオペレーションを実現させます。あんまり強く言うと反発もありそうですが、「教育コストがかかる」って「面倒くさい」の言い訳になってることもあるかなと、色んな厨房を見てきて思います。ちゃんと丁寧にガイダンスすれば人は動けると、私は考えています。
- 常識よりも効率性を優先させる
よく「『まかない』って皿洗いするんですか?」と聞かれるのですが、違います。
皿は洗いません。皿洗いは難しいからです。
具体的に言うと初見では食器の置き場所が分からないため時間がムダになるのです。「これはどこにしまいますか〜」なんて聞かれた日にはこちらも手一杯な中でパンクしてしまいます。接客と裏方のうち、接客をしてもらうのです。接客は、人間であれば接客された経験があるゆえにある程度動けるものです。
普通に考えれば、まかないさんは目につかない裏方に配置すると思います。
違うのです。常識よりも効率性を優先させるのです。皿洗いはその一例です。
(もちろん任せたタスクの質が落ちないよう設計する必要があります)
普通に人を雇ったほうが楽だから
これも理由の一つだと思います。
「まかない」のような不確定要素で店を回すこと、新しい仕組みをつくることは、常に試行錯誤が求められます。世の中のあらゆることはそうかもしれませんが、、新規性がある分その度合は大きくなると思います。
「まかない」など新しいものと向き合うときは、「やる方向で考える」といつも自分に言い聞かせています。ネガティブ思考な自分の癖も相まって逃げる理由はすぐにたくさん思いつくし、”普通”をやるのが一番楽ちんです。「やる方向で考える」「やる方向で考える」と何度も自分に言い聞かせて壁を登っています。
よく「バイトは雇わないんですか?」と聞かれるのですが、バイトという雇用形態が出来た瞬間に「まかない」の持つ魅力が色褪せてしまうと考えているので、今は考えていません。人は、比較対象があると比べてしまう生き物だと感じます。バイトの人がいると「あの人は1000円貰ってるのに私は一食か」と、まかないさんがふと思ってしまわないとも言い切れません。それに、そうやって「まかない」が臨時職(?)の扱いになると、「私が手伝ってるんだ」というモチベーションもなくなってしまうのではないでしょうか。店(私)があって、それを助けてやろうという感じでまかないの人がいて、その図式は、シンプル故に強いと思うのです。原始的で前時代的な在り方ゆえにかかる魔法があります。
最終的には「私」という属人性を店から除ききる必要もありますが、まだ開店から3ヶ月すら経っていないので今はまだそれを考えるフェーズではないなと思っています。
まかないさんがいると、凄くラクで、何より誰かと一緒に頑張れるのはいいもので、やっぱりいて欲しいけれども、前述した通り無理に頼む事はしません。今はあんまり人もいないけれども、だんだん増えてくるだろうと信じて耐えています。
ちなみに、未来食堂は「まかない」を単に人件費を浮かせるシステムとして組み込んでいる訳ではありません。『誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所』のために、お客様との縁を切らないために、考えたシステムです。(開店5ヶ月前から、すでにまかない券を作って計画していました)
「お腹減ったなあ、、もう誰も自分のことなんて気にしてくれないんだ」みたいな人がいると放ってはおけないのです。
そんなケース、そうそうはないと思いますが、でもそんなセーフティーネットがあるというだけで心強く感じませんか?
思いがあるからこそ、伝えたい人がいるからこそ、一見「無理だろ」と思われる壁を乗り越えられる、乗り越えようと藻掻けるのかもしれません。
ご覧いただきありがとうございました。いつか、お会いしましょう。
http://miraishokudo.com/